虚構の劇団って何?

虚構の劇団とは(NEW) 2007年9月3日

——旗揚げ準備公演から数えて、丸7年たちました。ここで、現在の「虚構の劇団」についていろいろお聞きします。

鴻上「はい。どうして旗揚げしようと思ったかとか、基本的な考え方は、この下にあるやりとりで答えてます。旗揚げ準備公演の前に答えたものです。詳しく知りたい方は、そちらもご覧ください」

——では、現在の「虚構の劇団」はどんなシステムですか?

鴻上「基本的な考え方は、ずっと変わっていません。劇団は試行錯誤し、失敗しながらも成長していける場所だという考え方です。具体的には、入団費や維持費は、いっさいかかりません。『虚構の劇団』を運営するサードステージという会社がすべて、責任を持っています。公演は、この7年間、平均して年2回やってきました。全部で、13 回公演しました。新作が6 本、再演が 5  本、鴻上以外が演出する番外公演が2本です。」

——劇団員は、現在、何名ですか?

鴻上「劇団員は、現在、7名です。平均年齢は、28歳になります。最年長は33歳、最年少は20歳です。新人は、オーディションで受かると、1年間、研修生として公演に参加します。その後、正式な劇団員になるかどうかが決まります」

——いきなり公演に出演できるのですか?

鴻上「はい。なにせ、劇団員が現在7名しかいませんから、ほとんどの場合、公演に参加します。公演に参加することが、1年後に、正式な劇団員になれるかどうかの最終試験なのです。それと、「一人芝居」を自分で創って、上演することが求められます。その結果で、1年後に決まります。1年後にしているのは、実際に一緒にやらないと分からないからです。オーディションの短い時間の間にすべてを決めるのは、不可能だと思っています。また、演技経験がまったくない人は、この1年間の成長で判断するのです」

——養成所みたいなものはないんですか?

鴻上「毎年、数人の合格者なので、養成所という形はとりません。公演に参加することが養成であり、研修です。その中で、必要なことをちゃんと伝えます」

——どうして、そんなに劇団員が少ないんですか?

鴻上「これはもう、鴻上本人の希望としか言いようがありません。鴻上が1981年から2012年まで作・演出をしていた劇団『第三舞台』の時も、俳優は最大10人でした。責任持って関係を創れて、演出ができる人数はそれぐらだと思っているのです。人数が多くなると、集団としてきしみや軋轢が出てくると思っています」

——劇団というのは、縛られるんじゃないでしょうか?

鴻上「いろんな劇団、いろんな事務所があると思います。『虚構の劇団』は、基本的に年二回の公演に参加すれば、あとは自由です。実際に劇団員達は、自分たちでユニットを結成したり、客演したり、映像の仕事をしたりしています。年二回の公演は、稽古が約5週間、公演が東京、大阪合わせると3週間ほどです。稽古は、週6日、13時から21時までです。
ただし、とてもおいしい仕事が、劇団の公演とぶつかった時には、僕と制作と俳優で相談します。劇団の目的は、「集団のまとまりを強める」ことではなく、「俳優として成長し、売れる」ことです。ですから、「この仕事は、劇団の公演を一回休んでもやる意味がある」と判断すれば、公演に参加しないという選択肢も当然、あります。」

——劇団は、「俳優として成長し、売れる」ことが目的なんですか?

鴻上「もちろん、その劇団でしかできない表現、その俳優達でしか現せられない瞬間・舞台を創り上げたいと思っています。そのためには時間と膨大なネエルギーが必要です。本公演を休んで、他の公演に出ることが、そのことに近づくことなら、さらに素敵だと思います」

——でも、劇団て、下っぱは、演出家や上の役者の使い走りになるんじゃないですか?

鴻上「だからあ、平均年齢28歳の俳優が7人しかいない集団ですよ。劇団員は、新人だろうが先輩だろうが、「ライバルであり同志」の関係になれたら素敵だと僕は思っています。下っぱでパシリにするような関係性は、僕が絶対に拒否します。だから人数が少なくしている、とも言えます」

——『虚構の劇団』の目標を教えて下さい。

鴻上「もちろん、プロの劇団になることです。つまりは、食える俳優、食えるスタッフになることです。現在、お金はいっさいかかりません。チケットノルマもありませんが、逆にいえば、ギャラはありません。観客を5千人、1万人と増やしていくことがプロになる道なのです。または、演技力を向上させて、客演や映像の仕事を着実にものにすれば、食えることができます。そのためには、『虚構の劇団』の公演が話題になること、舞台や映像(テレビ・映画)関係者が『虚構の劇団』の公演にたくさん来てくれて、『虚構の劇団』の俳優を発見し、認識してもらうことです」

——俳優のマネジメントもしていますか?

鴻上「はい。『虚構の劇団』を運営しているサードステージが、俳優のマネジメント部門を持っています。他の舞台の出演やテレビ、映画への仕事を斡旋しています。所属料やレッスン料・プロフィール写真代などはいりません。『虚構の劇団』に所属した場合、希望すればサードステージのマネジメントを受けることができます」

——スタッフ希望者の話もして下さい。

鴻上「はい。『虚構の劇団』は、演出部という名前のスタッフ部門があります。平均年齢がこちらも28歳です。どういう人がいるかは、「演出部」のページで見て下さい。鴻上は、1981年から2012年まで『第三舞台』という劇団の作・演出をしていたと書きましたが、その時の演出助手や演出部から、演出家の板垣恭一、脚本家の戸田山雅司、同じく脚本家の中谷まゆみ、美術家の小松信雄などが現在、活動を続けています。それ以外にも、演出部として多くのスタッフが活動を続けています。『虚構の劇団』の演出部も、同じように多くのプロを生み出せれば素敵だと思っています」

——なにか、特別なレッスンがあるんでしょうか?

鴻上「いえ。なにか特別な講習があるわけではありません。『虚構の劇団』の公演に参加し、現場を経験していくことで、プロになるためのスキルを磨いていくのです。それは『第三舞台』の時と同じです。現在、『虚構の劇団』の演出部では、プロの舞台監督、プロの演出助手が生まれました。さらに多くの演出家、作家、美術家、舞台監督などが生まれることを希望しています」

——作家志望のための文芸部というものはないのでしょうか?

鴻上「すべてまとめて、「演出部」と呼んでいます。『虚構の劇団』では、役者達がよく「自主公演」をやります。その時にやる台本を常に求めています。そこで、台本を書き、俳優に演じてもらうことが、一番いい練習だと思っています。もちろん、台本に対して、鴻上は求められればアドバイスします」

——どういう人を「演出部」は求めていますか?

鴻上「これはもう、将来、プロになりたいと思っている人です。そのために、まずは現場で汗を流すことが平気な人。これは、作家も演出家も美術家も舞台監督も衣裳も、すべてのスタッフ志望者共通のことです」

——最後に言いたいことはありますか?

鴻上「なにか質問があったら、いつでもサードステージの事務所に聞いて下さい。これが、質問用のメールアドレスです。☆印をアットマーク(@)に変えて下さい。
kyokou☆thirdstage.com
それでは、オーディションでお会いしましょう」

 

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で、「虚構の劇団」って何なのよ?
という疑問に、主宰・鴻上尚史がお答えします。
――どうして、劇団を旗揚げするのですか?


鴻上 「いくつかの理由があります。ひとつは、僕が良くも悪くも『教師体質』だということですね。やっぱり、若い俳優が成長するのを見るのが好きなんですね。一緒に、うまくなっていく俳優を見るのは、本当に喜びなので、また、あの感動を『第三舞台』以来、味わいたいということです。
二つ目は、僕は現代を描く作家なのですが、現在の日本の演劇界では、通常、1年半から2年、極端な場合は、3年先の芝居のスケジュールを決めなければいけないようになっています。これは、劇場を押さえるためには、しょうがないんですね。いえ、おかしいと思うんですけど、そうなっているんです。で、比較的大きな興行をするためには、2年から、2年半先の俳優さんのスケジュールをお願いするために、最低限、シノプシスを2年前に書かないといけないわけです。
でも、2年先の作品なんてのは、現代を描く僕としては、まったく、分からないわけです。だって、日本で9・11のようなことが起こったら、そこからまた世界の見方は変わるかもしれないでしょう。なので、ほんとに困った状況なのです。
が、劇団の場合、本番の数週間前の稽古初日に台本があればいいんですね。だから、ちゃんと今を切り取った作品を書くことができる。それは、作家としての僕には、とてもありがたいスケジュールなんです。
三つ目は、僕自身の演劇観を共有する若い俳優と一緒に芝居を作りたいということです。じつは、蜷川幸雄さんの『キッチン』に俳優として出演させてもらった時に、ニナガワ・スタジオ/カンパニーの俳優さんがたくさんいたんですね。
彼らは、蜷川さんがどんな作品を作りたいかとか、どんな演出をするのかをよく知っているわけです。で、蜷川さんは、彼らがいるから、安心して作品をたくさん創れるんだと分かったんです。そういう関係を持つ俳優さんがいるといいなあと思ったんです。
それが、『虚構の劇団』を創ろうと思った主な理由です。」

――どんな劇団になるんですか?

鴻上 「それは、どんな人間が集まるか次第です。よく、「稽古時間はどれぐらいですか?」とか「演出家の命令は絶対ですか?」とか質問を受けるのですが、すべては、メンバー次第です。
『第三舞台』もそうでしたが、劇団というのは、どんな人間が集まるかによって決まってくるのです。はっきりしていることは、「劇団の入団費やレッスン費などのお金はいらない」ということです。公演のための稽古場代などが必要になった時は、鴻上を含めて、全員で頭割りにします。すべてが、俳優と鴻上は同じ条件ということです。
なので、鴻上は、絶対の命令者ではありません。鴻上と俳優は、表現という現場において、よりよい表現のために、戦い・協同する者同士です。それは、道徳的な意味で「民主主義的」なのではなく、表現の現場においては、自由な発言と試行錯誤が、表現を磨き、鍛え上げていくと思っているからです。
どれぐらい公演するのか、どれぐらい稽古するのか、いつ稽古するのか、どんな作品をするのか、それらは、すべて、あらかじめ鴻上の頭の中にあるのではなく、集まってきたメンバーとの話し合いや活動の中で、決まっていくことなのです。」

――鴻上さんはすでに『第三舞台』という劇団を主宰なさってますが。

鴻上「もちろん。でも、若い者はいないでしょう(笑)。若い俳優との関係性を創りたいのです。
あ、それと、10年の封印を解いた2011年の公演を含めて、『第三舞台』がどうなるかは、メンバーと相談して決めることですから。」

――他の劇団や事務所に所属していてもいいですか?

鴻上「もし公演の時期が重なったら、どちらを優先するか、がどの劇団員なのかという意識だと思います。封印していれば別ですが、両方とも同じぐらいの意識で劇団員というのは、不可能なんじゃないでしょうか。
事務所は、大丈夫だと思います。ただし、劇団の活動をちゃんと優先・尊重していただける事務所でないと難しいかもしれません。売れるまでの、演技レッスン場とだけ思われては、劇団としてのまとまりがとれないので、それは、避けて下さい。」

――鴻上さんの考える劇団とはなんですか?

鴻上 「劇団とは、失敗と試行錯誤が許される場所です。プロデュース公演では、失敗は許されません。失敗すれば、次はないでしょう。けれど、劇団は、失敗しても次があります。それが、劇団とプロデュース公演との一番の違いだと思っています。だからこそ、劇団は演技を磨ける場になるし、自分のいろんな可能性を探れる場所になるんだと思います。だからこそ、仕事において劇団のスケジュールを優先とするというルールが生まれるのです。
ただし、失敗が許されるためには、劇団員同士、そして、僕とも、お互いがライバルであり尊敬している、という関係を作り上げないといけません。
そういう関係になって初めて、お互いの失敗を、次への試行錯誤として許されるのだと思います。
なので、オーディションの後、スタジオ生という段階を経るのも、ライバルでありリスペクトしているという関係性を慎重に作り上げようとしているためです。」

―― 一度劇団員になっても、やめることはできますか?

鴻上 「もちろんです。なんだか、劇団を「人買い」かなんかと勘違いしているんじゃないですかね。劇団とは、そもそも存在しないものです。ただ、それぞれの頭の中にしかないのです。だからこそ、なんでもできるし、なんでもないのです。そういう意味で、僕は『虚構の劇団』と名付けました。」

―― 劇団に参加するメリットを、あらためて説明して下さい。

鴻上 「ぶっちゃけて言えば、僕の創るものに興味がないと難しいかもしれません。その点を別にすれば、俳優として一生活動を続けていくための、”本物の演技力”を身につけることができる、ということだと思います。それ以上は、なんだか自画自賛になりそうなのでやめます。けれど、プロの俳優になるためのあらゆることを身につけることができる場所になると思います。」