「天使は瞳を閉じて」19

★第12回公演/天使は瞳を閉じて 虚構の稽古場Blog 2016年7月19日

そんなわけで、一日、一日と初日が近づいております。
「天使は瞳を閉じて」は、今回で6回目の上演だと、一回目のブログに書きました。6回目ということは、10人の登場人物をいろんな人が5回、演じたということです。
一番、演じた人数が少ないのは、マスターという役です。登場人物達が集まるお店の店長ですね。これは、今回を含めて、三人が演じています。一度は、女性が演じました。その時は、シスターという呼び方になりました。ワークショップ公演の時で、仙台から来た女性でした。
一番、演じた俳優が多いのは、チハルまたはハルカと呼ばれる四番目の女性の役で今回で6人です。つまり、全部、俳優が違います。次がアキラで、今回で5人になります。
僕は演出しながら、それぞれの俳優の演技の記憶が無意識に顔を出す時があります。意識的に思い出すこともあります。
演出しながら「第三舞台」バージョンをなぞろうとはまったく思っていません。ただ、その時、その時の俳優さんが一番、その役にあうようになったらいいと思います。
その昔、新国立劇場で市川右近さんを主演に「ピルグリム」を演出したことがあります。「ピルグリム」は、第三舞台の演目で、それをまったく新しいキャストで再演したのです。右近さんと稽古しながら話している時に「第三舞台版のDVDがある」という話になりました。右近さんは、「えー!?あるんなら、どうして見せてくれないんですか!」と驚いた顔をしました。
「いえ、なんとなく、積極的に知らせるのもなにかなと思って」と言葉をにごしたのですが、右近さんは、すぐにDVDを借りました。そして、見た次の日に、第三舞台で小須田康人と勝村政信がやっていたギャグをそのまま、稽古場で披露しました。
僕はそれを見て、唸りました。歌舞伎の人は、こうやって演技を受け継ぎ、発展させているのだと震えたのです。歴史の中で、いいものは誰がやっていてもいいものとして受け継ぐ、そして、それに自分だけのアイデアを足していく。
歌舞伎の歴史は、こうやって継承と発展をとげているのだと思ったのです。
と書きながら、自分のイメージが固まってないのに、別の人の演技を見たくない、という人もいるでしょう。それも当然だと思います。
自分の作品をシェークスピアを例に出して説明するのは、自分でも傲慢に過ぎると思うのですが、しかし、ちょっとだけ言うと、シェークスピアもまた、歌舞伎と同じ「継承と発展」の世界です。
何度も、「ハムレット」や「ロミオ」や「ジュリエット」や「リア王」が演じられます。同じ役を別の俳優がやることの面白さが、魅力のひとつなのです。
そういう時、有名な俳優のコピーをしてもしょうがない。けれど、歴史の蓄積の中で「ハムレット的なもの」「ロミオ的なもの」「リア王的なもの」が共有され、発展されていく。
いえいえ、自分で書いた作品「天使は瞳を閉じて」がそうだと愚かにも言っているのではありません。
ただ、僕の中では、いつも「今回がベストの配役であり、演技なんだ」という気持ちで演出しているということです。それが、僕の記憶を継承し、発展させた結果なのです。
写真は、4人の客演の俳優達。いい顔をしています。今回、いろいろと細かい注文を続けて、苦労をかけています。でも、劇団員達と素敵なコラボが生まれると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう一枚は、「よーえいさんが眠そうだったので、稽古場で寝てもバレないように、瞳を作ってあげました」と語る佃井皆美。意味不明ですが、皆美はいつも一生懸命です(^^

鴻上尚史

 

 


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